パリで、トラックに・・・

3年前の春、滞在先のロンドンから休みを利用し、パリに日本から母を呼び寄せて一緒に旅行をした。母にとっては、初めての「憧れのパリ」。母の長年の夢がかなうのに助力できたことで、私はなんとなく高らかな気分になり、足取りも軽く街中を案内していた。

ちょうどエッフェル塔のまん前の交差点で、それは起きた。歩行者青信号。しかし、左手を前方から直進してきた大型トラックが、速度を上げたまま左折してきた。私は一体、何を思ったのだろう。トラックが「止まるべき」だ、と優等生マインドが支配したのか、まさにトラックの前に入り込むかのように手を上げて叫びながら、一人青信号を渡っていた。ありえない、一瞬の危険。急停車したトラックの中で、アラブ系の運転手が、理解できない、とばかりに手を振り上げて叫んでいた。私は軽率を後悔し、その念は今も続く。

一瞬の油断が、最高のシチュエーションを最悪に変えうる、ということを学んだ。言い訳はある。止めるやり方でなければ、トラックの後輪が危ない軌道を描くように見えたのだ。しかし、運転手の隣にいた男が、話に興じていた運転手を気付かせなければ、私はトラックにそのまま轢かれていただろう。それも、母の目の前で。長年憧れたパリで。

笑えない悲劇を、私は運良く逃れた。母すらも覚えていないかもしれない出来事だが、最近思い起こすきっかけを得たので、躊躇しながらも書き記してみた。